長岡亮介のよもやま話299「ときには趣向を変えてPurcell(パーセル)の音楽から」

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 とかくこういうお話を続けていると愚痴っぽい話が多くなるのですが、やはりたまには楽しい話をさせてください。私は、いわゆる動画再生サイトというのも動画はあまり興味がないのですが、音楽を流してくれるサイトが多いのはとてもありがたいことだと思っています。今日は、皆さんもきっとご存知の、しかしあまりご存知ないかもしれないイギリスのバロック後期と言っていいんでしょうか、17世紀のパーセルという作曲家の音楽を取り上げたいと思うのですが、パーセルという人はいろいろと意見を言う人が多いと思います。ある意味で時代とずれていたという感じをわたし自身も受けますが、時代のずれが、決してわざと技巧的に時代をずらしている、つまり昔の人がこういうことをやったから自分としては新しくこういうふうにしなければならないというような芸術的な挑戦の結果としてやっているというのではなくて、やはり自分が最も作りたい音楽を自分で挑戦して作っている。そういう感じがするんですね。

 その音楽は、イタリアバロックのような華やかさもないし、後のバロックで語られるような精神性というのの深さもあるわけではない。そういう否定的なコメントはいくらでも可能だと思いますが、端的に美しい。言ってみれば自分の、例えばの話ですが、朝起きたときに太陽を見上げたときの感動、それをそのまま音楽にしているような、そういう素朴な喜びに満ちた感動というものを、私は感じてしまい、その素朴な感動というものに私自身がとても共感を持つということです。ぜひ皆さんも一度、パーセルの音楽を聞いていただきたいと思いますが、音楽史の中で特異の位置を持っているかどうか私は専門家ではないからよくわかりませんけれども、ちょっと変わっている。しかし、現代人にとって、割と先入観なしに聞くと、そのすがすがしさが伝わってくるようなそういう感じがするという音楽です。そういう意味で、ぜひおすすめしたいと思うのですけれど、今ではYouTubeで検索すると簡単に手に入ります。

 YouTubeというと、全く勝手な自己宣伝のような、本当に訳のわからないものが氾濫していて、それはもう聞くだけで耐えないという思いがすることが多いのですが、そういうものを避けて良いものを探すと素晴らしいものがたくさんあり、その中には数学に関してもとても素晴らしいものがあります。こういう素晴らしいものを作って、世界の人々に発信している人々は本当に偉いなと思います。また、その美しさを理解するには、映像の美しさは誰でもわかると思いますが、映像に込められた数学的な美しさがわかるためにはちょっと数学の修行が必要ですので、すぐにわかってもらえないと思うんですね。つまり若干のトレーニングが必要である。そういう若干のトレーニングを積むことはとても楽しいことですから、ゆっくりゆっくりそれを楽しんでもらえば良いと思うんですね。反対に「こういう問題は5分で解けます」というようなタイプの問題は、5分で解ける問題を5分で解いてみても何も面白くないじゃないか、と私はひねくれ者でそのように考えます。人が5分をかけてと言ってしまう問題を、私達は2時間かけてじっくり楽しみます。そういうものがあってもいい。音楽はそういうもので、早送りすれば1分で終わるかもしれないけど、それを2時間かけて聞くということに楽しみがあるわけですね。数学も実は同じなんですけれども、なかなかそれを理解してもらうのが難しい世の中になっているということを、つくづく感じます。

 だんだんだんだんえげつない文化が、そういうのを文化と言っていいかどうかわかりませんが、えげつなさが私達の生活の隅々まで支配しつつある。こういう世の中だからこそ、ちょっと古い時代の方に私がつい憧れてしまうのかもしれませんが、そういう本当に古いものもとても美しいし、今度そういうものの紹介をしたいと思います。まだポリフォニーもないそういう時代の音楽の美しさ、これも紹介したいと思いますが、とりあえず今回は、言ってみればその中間世代というか、バロック期で、しかもイギリスであったために、バロックの文化的な中心とずれていた。そのずれていたことが、現代の我々から見ると、妙に清々しく感じられる音楽であるということです。その時代、数学においても偉大な発見がなされようとしていたわけでありまして、ヨーロッパは大きな文化的な大変革の時期を迎えていたわけでありますね。イギリスで言えば、シェイクスピアが活躍する時代でありますけれど、音楽においては私達現代人と直接共感できる世界がありますので、ぜひ皆さんにも聞いてもらいたいなと思って、お話させていただきました。専門でないことに関して、図々しい発言であることは百も承知ですが、専門家でないからこそ言える、言ってみれば非常に乱暴な結論も面白いのではないかと思っております。

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