長岡亮介のよもやま話284「『クロサギ』というTVドラマ」

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 月末が迫ってくると何となくせわしない気分になりますが、月という単位は1年を約12等分した単位で、それが私達の生活の一種のリズムを作っているということは事実ですが、一方で1年間365日、ちょっと誤差がありますけれども、それを私達は自分の人生の非常に大切な周期として、考えていますね。年末年始の行事から始めて様々な宗教行事、日本は宗教と言っていいかどうかわからないような本当にたくさんの伝統的な行事というか、形式というか、習慣・慣習というか、みんな誰も大切だと思ってないのに、何となく神妙な顔をして付き合う葬式のような行事。本当に親しい友人を私は昨年亡くしましたが、本当にそれはそれはつらいことですが、多くの葬式に置いて感ずるのは、その人との別れを真に惜しんでいるというよりは、人はみんなこのように死んでいくのだなという、よく言えば人生のはかなさについての理解の共有、悪く言えば人生の意味について何も考えない。とてもじゃないけども、古代の快楽主義者と言われる人々のような深い思想とは無縁に、「生きててなんぼだな」というような会話が交わされるのを聞くと、いたたまれなくなります。

 それと同時に、年という単位はすごく長いように見えて、やはりとても短いですね。10年という年月はあっという間に過ぎます。「年をとると時間が経つのが早くなる」とは多くの人の指摘するところでありますが、考えてみれば、子供の頃生まれて10歳の少年まで成長する。その間には大変なことがあるわけでありますから、この10年間が非常に長く感じられる時間であったということは事実ですね。そして、その後の10年、20歳になるまでの10年もまたそれなりに長いですね。私は時々お話してきましたけれども、私の中学高校時代は、実にくだらないという時間とかけがえのなく貴重だと思う時間、それが交錯した、よく言えば充実した、悪く言えば人間の人生の意味について懐疑的になったという時代でありましたけれど、それでも長かったですね。

 20歳過ぎてからの時間。そこからでも私は既に半世紀以上生きているわけですが、1世紀とか半世紀というのは、若い頃は本当に「歴史的な大事件が起きてから半世紀」というような感じで捉えますから、すごく長い時間だと思うんですけれども、実は一瞬なんですね。地球の歴史と比較すれば明らか。人類史と比較しても、人類史なんか地球史と比べると遥かに短いんですが、それでも本当に短い。宇宙史と比べたりすれば、もっともっと短いということになりますけれど、この短い歴史的な展開の中で、私達はこの数十年の歴史的な変化が、私達に幸せをもたらすはずの文明の進歩ではなく、私達をますます不幸にする、そして社会を分断する困難に満ちた時代になってしまったということ。

 そしてその背景には、科学技術の進歩ということもあると思いますけれども、それ以上に私自身が痛感するのは、言ってみれば大衆社会と言われるもの中で、最もかもになりやすい人々、つまり子供たちを相手にしたビジネスの成長ですね。携帯電話に象徴されるような、すごく軽薄な文化。それが「ユーザー数が多ければそれでいいんだ」というような思想というのでしょうか。YouTubeっていうのがそれの代表なのかもしれません。Facebookとか、Xとか言われるものはそうなのかもしれません。私はそういうものにあまり縁がありませんけれど、ちょっとちらっと覗くと本当にとんでもない情報の氾濫する社会。情報というよりもでたらめというか、自己宣伝というか、虚偽情報というか、詐欺商法ですね。そんなものが氾濫している。もう少し「自分たち自身の発信する情報に責任を持つ」ということが大切だと思うのですが、責任を持つということになると厄介だということんなんでしょう。自分の声や姿をわざと変えて、メッセージを発信している。そういう不埒な人たちもいます。そうかと思うと、本当に詐欺師そのものというようなことを堂々とやっている人もいます。

 その詐欺師に関連して、今日皆さんにお話したいと思ったのは、現代というのは詐欺師が横行する社会である。そしてその詐欺師が若者の血と汗と涙と金を奪っている。そういう構造を持っているということをお話したいと思っていたんですが、ことを象徴するおもしろいテレビを見ました。それはAmazon Primeというところでやっている、昔TBSという民放でやっていたテレビ番組のようなんですね。その全体としては、とても出来が良い番組だとは思えないんですけれども、『クロサギ』という名前でやっていて、その第一作だけはとてもよくできていると思いました。俳優とか演出とかなんかは本当に手抜きというか、やはりただの下手というのか、何て言っていいかわかりません。だからこれは立派な作品だというふうには言いづらいんですが、話としてあまりにもリアリズムを超したリアリズムが軽く描かれているから誰もリアリズムと受け止めてないと思いますが、私はかなり真に迫った問題提起だったと思うんですね。

 Amazonといえば前にもお話したかもしれませんが、私は倍賞美津子さんが主演した『プラン75』という番組を3回ほど見ましたけれども、何回見ても答えが出ない重い問題を提起していて、私達が日々考えなければいけない問題であるというふうに、私は思います。できたら若い人にも見てほしいなと思います。『クロサギ』という方は軽い番組で、『プラン75』というのは重い番組であると思います。

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