長岡亮介のよもやま話175「詐欺に騙されない方法?」

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 数回前に、絶対という言葉を私達人間はあまり気楽に使いすぎているんではないかということを数学的な側面から論じてみました。日常的に使われる言葉というのを精密に考えてみると、そこでおかしなことが起きているということはいっぱいあるんですが、最近あまりにも露骨におかしい言葉、これが堂々とインターネットの世界で流通しているというのを見て、とても残念に思います。

 例えば、詐欺に遭わない秘訣。こういう言葉。詐欺に遭わない秘訣って、それは詐欺に騙されることがない、詐欺に騙される魅力がないという人であれば詐欺に引っかかる心配はない。詐欺に引っかかるというのは、自分の心の内に何かしら弱いものがあって、その弱いものを甘く包むというか、突くというか、そういううまい言葉でもって、つられてしまうわけですね。昔々私の書いたエッセイですが、私はその頃ゴルフをやっておりました。「ゴルフなんか私のように運動神経がまあまあの人間が若い頃始めれば、簡単なものに過ぎない」、そう思って始めたわけです。私としては、師匠に対する親孝行の気持ちで始めたんですが、これがなかなか難しいんですね。ボールによく当たるときには、よく曲がるんですね。よく曲がると、飛ばないときよりもよっぽどひどい目に遭う。これがゴルフの面白さと言ってもいいわけでありますが、まっすぐピューンと飛んでいって曲がらないって、そういうボールが打てたら最高に嬉しいわけですね。ですから、どんなに高いクラブであっても、「クラブが飛び、かつ曲がらない」というのをキャッチコピーにしたりすると、ついつい心が惹かれたものであります。しかし、そんなものはあるはずないですよね。飛ぶクラブというのは曲がるクラブであるというのは、普通の常識から考えれば当たり前なんですが、曲がることに対してあるいは飛ばないことに対して悩んでいる人には、そのセールストークが心にぐっとくるでしょう。食べても太らないってというのは、肥満に悩んでいるダイエット効果になかなか効果があげられなくて疑問を持っている人々にとって、必ず痩せるというような言葉、これは大きな力を持ってるんじゃないでしょうか。

 最近、もっと露骨に儲かる秘訣、「これを今聞いてるこの番組を聞いているテレビのチャンネルあるいはYouTubeのチャンネルに登録した人だけに、限定何名様で、その秘訣を差し上げます」そういう広告ありますね。もしそういう秘訣があるんだったらば、その秘訣は昔の剣術の達人が、その秘術というのを伝授するというのは、特別に特別の弟子たちだけであって、誰に対しても先着100名様、そんなことするはずがないですよね。大体先着100名様という言葉、これはとにかく人々の焦る気持ちを掻き立てて、早く申し込ませようと、何も考えずに申し込ませてしまえばこちらの勝ちだという詐欺の心が露骨に表れていると思うんです。だからそれに引っかかるはずがない。だから詐欺に引っかからないためには詐欺師の手口の基本をマスターすればいい。

 最近詐欺もだんだん手が込んできて、「日本人は世界で一番英会話が下手です。なぜか。英語の勉強の仕方が悪い。教育の仕方が悪いんです。使われてない英語を教えるからです。」こういうようなことを言うと、英語を使ったことない人は、使える英語が使えるようになったら嬉しいなと思っちゃうんでしょうね。でも皆さん、ぜひそれを日本語に置き換えてみてください。使える日本語、日本人の間で使われてる日本語、それを外国人が勉強したら一体どういうことなるでしょうか。日本人の喋っている日本語で意味の通じないものは、もう本当に数え出したらきりがないくらいたくさんあると思うんですね。それを私はでたら表にまとめたいと思ってますが、あまりにもありすぎて、まとめる元気さえ起きない。つまり、日常的に使われている表現なんていうのは、所詮あんまり頭を使わずに、そのまま日常的な挨拶言葉のレベルで交わしている表現に過ぎない。ですから、決して礼儀正しくもないし、その人の知性を感じさせるものでもないわけですね。私が最近聞いた話では「How are you?」って言われて「I’m fine thank you.」って答えたら笑われるといわんばかりの表現が出てましたね。「How are you?」って聞かれたら「Good.」と答えればいい。そりゃそうですよね。「どんな気分?」「いいよ」、そんなもんですよ。でも、「And you?」っていう言葉を使うことによって、ヨーロッパ人あるいはアメリカ人の中にある、人と人とのコミュニケーションを円滑にするための最小限のスタイル、そういうものを無視するぶっきらぼうな日本人のような表現。それがアメリカでも使われていると事実だと思いますよ。でも、それを「How are you?」って言って「Good.」って答えたからといって、その人が英語できるなって思ってもらえること、全くありませんよね。そういう常識。つまり、詐欺に騙されない一番の秘訣は、自分の常識を信ずることですね。

 「あなたは昔何とかの病気にかかっていませんか。そうだったならば最大50万円もらえます。」政府の還付金のことをでありますけれども、政府が司法の場で、「このような治療をずっと標準的なものとして認めてきたというのは、厚生労働省の厚生行政の誤りである」という判断が裁判所で示されて、「その間に厚労省の指導に従っていたために、不可逆的なハンディキャップを負った人に対して、国が賠償金を払う」っていう話です。しかし、賠償金をもらったからといって幸せになるわけでも何でもない。古く、もう昔昔かかった病気、それを半ば克服しているそういう身の人が多いと思いますが、そういう中にあって、賠償金を取ってその賠償金の半分を手数料として取る。そういう手配師みたいな仕事を堂々と国の資格認定を持っている人たちがやっているってことに対して、仕事がないのだから気の毒だなという気もいたしますけれども、やはりそういう仕事を生きる術にするということ自身が、ちょっとみみっちいのではないかとという気がします。

 弱い人の立場に立って戦うってこれはとても良いことだと思います。でも、弱い人たちが弱いままにいるということ、それを助長することは決していいことではない。弱い人が一人前の人間として立ち上がれるようにすること。そのことがとても大切なことなんだと私は思うんです。税金のようなお金。それを自分でたかって、自分の生活を少しでも楽にする。それは本人の権利だと言えば、もちろんそれは間違ってないと思います。しかしながら、本当に大切なことは、一人一人の人間が、自分の尊厳を持って生きることができるようにすることで、わずかなお金を政府からせしめて、それは結局、国の税金なわけですね。その税金を自分のところに少し戻してもらう。そんなことで、自分の人生が豊かになるはずがないですよね。皆さんはかつて政府の税金によってコロナ対策用のマスクが配られたという馬鹿馬鹿しい政治事件を記憶していらっしゃると思いますけれども、みんな本当に自分のお金であるとすれば有効活用するということを考えると思うんですが、自分のお金じゃないものを使うとなると、宣伝広告の効果がどのくらいあるかってというような広告代理店の感覚で物事を考えてしまう、ということの典型的な表れではないかと思います。

 騙されるか騙されないかということについて言えば、私の母は私に「人を騙すよりは騙される人になりなさい。騙されることは決して悪くない。」そういうふうに教えましたが、今のようにあまりにも詐欺事件が多くなると、私も人々に騙される側に回って欲しくない。そういうふうに願います。騙す人間、本当にどうしようもないせこい人間、そういう人間の卑劣さを思うときに、犠牲者になる人を少しでも減らさなくちゃというふうに私も思わないわけではありません。でも、やはり詐欺とか虚偽とか騙すということには、騙される側にある種の弱点があるということ。そのことを忘れてはいけないと思うんですね。自分の弱点を意識し、敵の弱点も意識する。それは“孫子の兵法”みたいなことでありますけれども、その弱点をきちっと理解していれば、それを突かれたときに、決してそれで騙されることにはならないんじゃないかと私は思います。

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