長岡亮介のよもやま話17「ローザンヌ国際バレエコンクール2023を見て」

 今日は私の最も縁遠い世界の話と私も思いますし、皆さんも思うであろう、そういう話題についてお話したいと思います。それは久々にというか明るいニュースとして入ってきた、スイスのローザンヌで開催されるバレイのコンペティション、Prix de Lausanneっていうふうにフランス語では言いますが、それの2023年のファイナルで日本人が何人か残りその中の一人、男性が8位に入賞した、というニュースですね。ローザンヌで入賞すると奨学金がもらえて、その奨学金によって有名な国際バレエ団のスクールに入学し、プロフェッショナルとしてのバレエの技を磨くことができる、そういう絶好の機会が与えられるということですね。世界の有名な場での専門家たちによって、この若い子は見所があるからもう少し練習すると良い、というふうに認められるということでありまして、素晴らしいことですね。若い人を育てるためにそういう賞を設けている、このローザンヌのシステムも素晴らしいんですが、やはり若手を育てていくということの重要性っていうのはどの分野にもいえることだと思います。

 そしてそれを家柄とかそれまでの周囲の方の実績とは言うんではなくて、個人の実績、個人の能力として評価する、このシステムが素晴らしいですね。日本ではチームワークのようなものが重んじられ、一人のミスがチームの敗退を招くというようなゲームに人気が集うことが少なくないのですが、むしろ個人の責任は問われない、そういうチームスポーツの方が面白いというのを私はイギリスで学びました。イギリスの有名校でラグビーやボートがものすごく盛んなんですけど、その理由を私は聞いたことがありました。そしてそのときには非常に明快な答えが返ってきたのでした。それは一人の成果とか一人の欠陥で結果が決まらない、全員の協力した結果で誰が良い誰が悪かったっていうことがはっきりしないままチームワークとしての成果が問われる、そういうスポーツであるということですね。若者を育てる上でそのような精神がとても大切だということでありました。

 私はそれに大変感銘を受けたんですが、他方で個人の持っている才能、個性、これを尊重するということも同時に大切なことで、よく全体主義国家っていう言い方をする人がいますが、全体主義というのはみんなのためを考えるという意味であるならば、日本はまさにその全体主義国家の代表のようなもので、全体のために個人を犠牲にしても良いかという問題、それが常に社会の全体のために、それを優先して考えるということの思想につきまとう一番厄介な問題なわけですね。全体主義の反対っていうのは個人主義ということだと思います。個人主義というのは、現代日本あるいは現代のアメリカのように、結局のところアメリカンドリームを達成した個人の夢がかなうということが一番大切だ。ということになってしまいますと、極端な場合は利己主義を推進するということに、あるいは推奨するということになりかねません。個人主義の持っている最大の欠点というのはそこにあるわけですね。他方で、人間の持っている個人の個性、能力、それを尊重しなければいけないということは、人間社会において最も基本的な原則であり、私達日本人は時々そういうことを忘れがちですね。

 忘れがちな日本人ではありますが、そういう日本人でも決して忘れないところが何ヶ所かあります。スポーツの分野、あるいは囲碁・将棋の分野、そういう勝負の世界です。そういうところでは、その人の生まれ育ちとは無関係に、その人の能力っていうのを十分に発揮される。そしてその発揮された能力に対してみんなが惜しみなく称賛する。そういう文化は日本人の中にもあると思うんです。日本人は不思議な事にそういう個人勝負の世界では妙に個人主義的でありますね。しかし、集団で競技するというのも、日本は同じくらい重要視していて、みんなで一緒になって戦う、しかし一人の人の失敗がチーム全体の敗北を招くそういう場面があったときに、その失敗をした人の個人の責任が誰も言わなくても追及されてしまう、そういうことの問題点、それを感じている人は少ないのではないかというふうに思います。日本でやたらに盛んな集団スポーツの中で、個人技が決定的な影響を及ぼす、あるいは個人の失敗が決定的な結果に影響をもたらす、そういう分野のスポーツが日本で盛んなのは、私は日本のなんか戦前の体質を引きずってるような印象を持ってすごく嫌なんです。

 それに比べるとバレエって言うのは、私は決して得意な分野ではないのですけれど、憧れの分野ではあります。そのローザンヌという大きな場で、日本人の若い方が活躍したっていうニュースは、とても嬉しいニュースとして聞きました。今年のローザンヌは、スカラーシップつまり奨学金をもらった人が11人もいたということで、11人の人っていうのが結局入賞者になりますが、ちなみに1位の方はスペイン、2位の人はメキシコ、3番の人は韓国、4番の人はUnited States、実は1位が同率1位ということで1位が2人いるんですが、1位がスペイン、1位がメキシコで、3位がSouth Korea、4位がUnited States、5番目が韓国、6番目がルーマニア、7番目ブラジル、そして8番目に日本人宮崎さんって方が入っています。9番目にオーストラリア、10番目にイタリア、11番目に韓国。こういう11人がローザンヌでスカラーシップを得るということが決定されたというニュースです。

 おそらく、ローザンヌはこれ以外にもいろいろなクラシックバレエの場面だけではなく、多分私がよくわかりませんが、多くの賞がその他に用意されてるんだと思います。そういう中で若い人たちがそのように輝いていくということは素敵なことで、やはり自分の同世代の人間がもう世界の舞台でこのように輝いているということは、若い方にとってもとても励みになるのではないか、という気がして嬉しいニュースとしてお届けするようにいたしました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました